1 中小企業家同友会とは

(1)同友会とは、どのような団体か

 同友会の歴史は、「どうすれば自社が、より発展するか」を真剣に考える中小企業経営者が、同じ考えを持つ仲間と共に、その経験や悩みを持ち寄り、議論を通して、「中小企業経営そのものをどうするべきか」という観点、また中小企業の根本的な利益を守るという立場から、1957年(昭和32年)4月に日本中小企業家同友会(現東京中小企業家同友会)として生まれました。長崎県中小企業家同友会は1972年11月14日に102名の会員で発足しました。

 その後、「企業の発展の原点は社員の能力を最大限に発揮させること」、「社員との間に信頼関係を築くために、経営者はどうあるべきか」「社員に生き生きと働いてもらうためにはどうすべきか」という議論が「労使見解」として形づくられ、それが発展し、より普遍的な「同友会理念」に結実していきました。

 私たちは、その先輩方の経験から得られた学びの実践を、自社の経営に反映させ、時代に即した、より良い経営を進めていく必要があります。

 日々の同友会活動においては、同友会理念の理解を深め、これを実現することをめざしています。そのめざすところを常に意識し、より充実した活動の実現につなげていくことが大切です。

 同友会は、中小企業家が自主的な参加と民主的な運営により、中小企業家のあらゆる要望に応えることを基本とした、他にはない特色を持った団体です。考え方、立場、業種、企業規模にとらわれず、会員の希望や求めるものに基づいて、お互いに気軽に話せ、惜しみなく経験を共有し、共に学び、共に繁栄をめざしている中小企業家の団体です。

(2)同友会理念

 企業に経営理念があるように、同友会にも同友会運動の歴史の蓄積で培われてきた同友会理念があります。その内容は会の目的、性格、基本となる考え方の総称で次の3点です。

『三つの目的』
『自主・民主・連帯の精神』
『国民や地域と共に歩む中小企業』

三つの目的

①「よい会社をつくろう」

 同友会は、ひろく会員の経験と知識を交流して企業の自主的近代化と強靭な経営体質をつくることをめざします。

* よい会社とは企業の理念が明確であり、顧客や取引先からの信頼も厚く、社員が生きがいを持って働き、どんな環境変化に直面しても永続して利益を出し続ける企業といえます。

 このような強靭な体質の企業づくりをめざして、会員相互に切磋琢磨して学びあうことを提起しています。

②「よい経営者になろう」

 同友会は、中小企業家が自主的な努力によって、相互に資質を高め、知識を吸収し、これからの経営者に要求される総合的な能力を身につけることをめざします。

* 古くから“企業は人なり”と言われており、経営者の器の大きさが企業の中身と将来を決めるカギです。会員一人ひとりが常に経営者として全人格的な成長をめざし、自分自身に磨きをかけていく、そのために謙虚に学びあい、高まりあい、総合的な能力を身につけていこうと呼びかけています。

③「よい経営環境をつくろう」

 同友会は、他の中小企業団体とも連携して、中小企業を取り巻く社会・経済・政治的な環境を改善し、中小企業の経営を守り安定させ、日本経済の自主的・平和的な繁栄をめざします。

* 私たちは、主として個々の経営努力によって企業の未来を切り拓いていきますが、経営努力だけでは解決できない、時代の流れ、産業構造の変化、政治・経済の仕組みから生じる困難な課題がたくさんあります。私たちは、日本経済の真の担い手としての誇りと自覚に立って、経営努力が正しく報われる経営環境を実現するために、会員が結束し、他の中小企業団体とも連携し、努力していきます。

 この「三つの目的」はそれぞれが切り離されて独立したものではなく、相互にからみあって、有機的なつながりを持っています。「よい会社」にしていくためには、「よい経営者」になる努力が大切であり、中小企業が繁栄する土壌=「よい経営環境」が必要です。また、同友会が「よい経営環境」づくりのための要望を社会にアピールしていく場合も、会の構成員が、「よい会社」「よい経営者」をめざす“良識ある経営者集団”としての社会的評価を得られるように努力することが大切です。会の全ての活動を「三つの目的」の実現をめざすという、総合的な視点から常に考え、行動していきます。

 具体的には、支部例会等での経営体験報告のレベルアップやグループディスカッションの充実、委員会、研究会など支部を越えて、県・全国での経営指針成文化・実践運動や社員教育活動の発展、産学官をはじめ他団体との連携など、あらゆる機会を通じて企業革新と経営者の自己革新を促し、刺激しあうことで達成していきます。

自主・民主・連帯の精神

① 自主というのは二つの意味を持っています。一つは、同友会は他のいかなるところからも干渉や支配を受けないということです。もう一つは、入会も退会もまた行事への参加についても会員経営者の自主性を大切にするということです。つまり、会の主体性を守るということと、会員の自由選択権を保障するということです。

② 民主にも二つの意味があります。一つは、会の運 営を会員の要求や意見に基づいて行い、ボス支配がおこらないようにするということです。もう一つの 意味は、民主的なものの見方や考え方を積極的に広 めていく、とりわけ企業内で実践していこうとい  うことです。このことによって組織の自浄力は強化 され、発展が保障されます。

③ 連帯は、会員同士の腹を割った裸でのたすけ合い と、あらゆる階層の人たちと手をとりあっていく、 外へ向けての融合、協力、団結をすすめる意味とが あります。特に会内においては、経営者として全人 格的完成をめざしての相互の高まりあいから生まれ る深い信頼関係(高い次元でのあてにしあてにされ る関係)が連帯の中身となります。

「経営理念」赤石義博著(2003年改訂版鉱脈社刊)第1章三節及び第二章を参照ください。

国民や地域と共に歩む中小企業

① 豊かな国民生活の実現に貢献するものであり、企業 活動が理念と実践の上で反国民的であってはならないということです。かつて第一次オイルショックによ る人為的な物不足により、日本国中が騒然としていたとき、中小企業家同友会全国協議会はいち早く「私たちは、便乗値上げ売りおしみ等の悪徳商人にはならない」との声明を発表(1974年、第4回中小企業問題全国研究集会・長崎開催)したことは、私たちの経営の基本姿勢を表明したものです。

② 中小企業はすぐれた製品やサービスを提供し、人々 の暮らしの向上と地域経済の繁栄を保障するという 社会的使命を負っています。地域と深いかかわりを持 つ中小企業の発展は、雇用の創造の面でも、個性ある 地域づくりの点でも大きな役割を果たしており、それ だけに社会的責任も大きいものがあります。この社会 的使命感と責任感こそ大切にしたいと考えます。

③ 地域は今さまざまな問題をかかえています。私たちはそれぞれの地域において地域経済のバランスのと れた活性化に中小企業家の立場から提言し、かつ自治体や地域の人々と共に地域おこし、まちづくりに行動することが必要と考えています。

(3)人間尊重の経営(労使見解)

 私たちは「同友会三つの目的」に沿って同友会運動(長期的視野に立って「中小企業と国民生活の繁栄」という戦略的課題に取り組むこと)を進めていますが、この歴史の中で、1975年、中同協は「人間尊重の経営」を呼びかけ、「労使見解」を発表しました。 「労使見解」は仕事を通じてのやりがい、生きがい、誇りと喜びを感じとれる企業をつくろうと言っています。

①経営者の経営姿勢の確立

我々経営者は、経営環境がいかに厳しくとも、困難の原因を安易に他に求めて経営をあきらめたり、投げやりにならずに経営の責任を果たし、経営の維持と発展に全力を尽くし、情熱を傾ける姿勢こそが大切です。

②経営指針成文化の実践

経営者は、英知を結集して長期的な経営計画を作成し、経営全般について明確な指針(理念・10年ビジョン・方針・計画)をつくることが何より大切です。

③社員との教育的人間関係の確立−共育

社員の生活を保証し、高いモラル(士気)のもとで、社員の自発性と創造性を発揮させる状況を、企業内に確立することが決定的に重要です。

④経営環境の改善

経営の安定的な発展のためには、社員と徹底的に話し合い、共に力を合わせて経営環境を改善していくことが重要です。

(4)「三位一体」の経営実践
  (指針成文化・採用・社員との共育ち・ダイバーシティ)

① 三位一体とは

 指針・採用・共育を意味します。同友会活動の柱の一つと位置づけられています。

  • 経営指針(経営理念・10年ビジョン・方針・計画)
  • 人材(財)採用(共同求人−共同で人材(財)を確保)
  • 人材(財)共育(指針のベクトル合わせ、人間成長の場)

② 企業にとっての「労使見解」の考え方の重要性

 基本的なスタンスとして、「労使見解」に基づき、三位一体活動がある。

 この認識がまず重要です。

 社員に対しては、本人の能力が充分発揮できるような共育の場を提供し、本人が持っている顕在能力はもちろんのこと、本人も気付かない潜在能力を発揮できる環境を、すなわち働きやすい企業風土をつくり出し、生きがい・やりがいがでる仕掛けをし続けることが「人間尊重の経営」になると考えます。

④ 経営指針と求人(採用方針・計画)の関係

 新卒採用で問題になるのは、かなりの経営者が思いつきで採用していることです。

 例えば、その年によってたくさん採用したり、逆に全く採用しない年があったりすると、年度によって人件費増で体力を落としてしまったり、すばらしい人が現れた時にせっかくの機会を逃がしてしまったり、更には組織としての層を着実に厚くする必要があるにもかかわらず、ある年代層を断ち切ってしまったりというような問題が発生します。これでは何のための採用だったのかわかりません。

 また、企業にとって必要な人材を採用しようとしたとき、学生を選んでいるつもりが、学生の方も実はしっかり企業を選んでいます。会社の将来・方向性、企業に入ったらどんな仕事につくか、何を期待され、何をやればよいのか、生きがい・やりがいが持てる会社か、明快に回答をしていかないと、こちらが採用したくても逃げられてしまいます。

 このように考えていくと、いかに経営指針が大切か、企業を活性化し、発展させる原動力になる人の採用という観点からみてもよくわかると思います。

⑤ 経営指針と共育(方針管理・共育計画)の関係

 「労使見解」に基づき「経営理念」が作成され、「経営理念」を追求していく過程における自社の理   想的な未来像(ありたい姿)を「10年ビジョン」としてあらわします。この「10年ビジョン」の実   現をめざして中期(3~5年)の目標を示しそれに到達するための道筋を示したものが「経営方針」であり、この「経営方針」の設定に基づきそれを達成するための手段、方策、手順(いつ、誰が、どのように)を具体的に策定されるものが「経営計画」です。

 「10年ビジョン」達成のために確実に「経営計画」を実行し、「経営方針」の到達点を確認することが重要です。そして経営の判断基準である「経営理念」を全社員と共有することが共育の一つの目的でもあります。全社員と方針管理(PDCAサイクル)を行い、経営指針の実践が強靭な企業をつくり上げていくことになります。

 一方、社員一人ひとりの活性化に対する共育は、如何に潜在能力を会社と本人が共に引き出す努力をしていくかということです。同友会理念に基づく共育とは、経営者はもちろん、関わる社員と共に学び、共に成長し、企業の発展を確かにしていくことです。

 最終目標は一人ひとりが生きがい・働きがいを感じ、人間としての成長が図られることにあります。

※長崎同友会では「人を生かす経営 4委員会」(経営労働委員会・共育委員会・ダイバーシティ委員会・共同求人委員会)として、経営指針成文化・実践、社員教育、性別・年齢・国籍・障がいの有無にかかわらない雇用、採用活動の取り組みを連携して行い、人を生かす経営の総合実践をめざしています。

(5)同友会運動と企業経営は不離一体

 “同友会らしさ”とは、同友会理念の体現を意味します。すなわち、「同友会の三つの目的の実現をめざし、自主・民主・連帯の精神で同友会運動と企業経営を推し進め、国民や地域と共に歩む同友会づくり、企業づくりに邁進すること」です。このことは、会員相互の真剣な学びあい、社員と共に育ちあい、地域と共に繁栄する企業づくりをめざして、意欲的、創造的な活動を行うことを指しています。 

 同友会は会員数が増え、組織がどんなに大きくなろうとも、一人ひとりの会員にとって、「経営者としての資質を高め、強靭な体質の企業づくりに役立つ会」です。 会の活動に熱心に参加することによって、絶えず新鮮な刺激を受け、経営者としての自己革新が促され、学んだことは経営の場で実践され、必ず成果に結びつける努力をします。そして、その成果や教訓を例会、研究会などで発表し、再び同友会活動に還流することによって、更に会の質的前進が図られていきます。このようなサイクルで会員企業は成長し、同友会運動も発展します。そうした意味から、同友会運動と企業経営は“車の両輪”の関係であり“不離一体”のものと考えています。